観ると話したくなる、シンゴジラの感想(ネタバレあり) | スリムキュー - slimqu
公開4日間ほどで興行収入10億円オーバーを記録し、リピーターも続出しているというシン・ゴジラ。総監督・脚本は庵野秀明、監督・特技監督は樋口真嗣。
今まで映画館でゴジラを観たことなかった映画素人の筆者が、「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督によるシン・ゴジラを観てきたので感想を書いておきます。序盤から終盤まで緊張しながら、そして心を震わせながら観ることができました。少しネタバレを含みますのでネタバレが嫌でない人向け。
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目次
ネタバレと感想
ここから先はネタバレを含む内容となっているのでご注意ください。以下、個人的感想です。
入手困難なパンフレット
映画パンフレットを買うなんて生まれて初めて。それほどシン・ゴジラを観たあとも興奮冷めやらぬ状態でした。映画を観る前に「パンフレットが品薄である」という情報が入っていたので一目散にパンフレット売り場へ向かったのですが完売状態。地方の映画館を周りやっと入手しました。
帯の表面には「ネタバレ注意」、裏面には「映画をよりお楽しみ頂くため、映画ご鑑賞後にお読みください。」と書いてあります。庵野氏の制作発表時のコメントやキャスティング、ゴジラの全体像など。
つまりネタバレを含む写真があるのですが、メインシーン「放射熱線シーン」が写っているので、シンゴジラの鑑賞前には絶対に見ないほうが良いです。
演出と構成
パンフレットにリアリティの追求について書かれていました。
『シン・ゴジラ』の大前提は「”ゴジラ”という壮大な虚構を成立させるには、他のものは極力、現実に則していなくてはいけない」ということ。そのリアリティを追求するため、自衛隊、政界や官僚の世界など、物語に出てくる状況設定、登場人物の扮装はもちろん、話し言葉や仕草、彼らがいる場所の美術に至るまで、徹底したリサーチがなされていった。 パンフレット P28 より抜粋
【映画パンフレット】 シン・ゴジラ SHIN GODZILLA 監督 庵野秀明 キャスト 長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ
3.11の記録資料や有事法制に関する論文などをベースにフィードバック。内閣府の協力や防衛省の見解に添った話の進め方で正確に再現できたそうです。
まさにこの徹底したリサーチが今の映画界にないもので、ドキュメンタリーのような現実感がゴジラという虚構を成立させるに至ったのだと解釈しました。
あらすじを簡単に説明すると内閣官房副長官VSゴジラ。官僚のやり取りと会議のシーンが多いが、コマ割りが漫画的で見やすい。会議室の様子がかっこよく見えるという希有(けう)な構成。
しつこく繰り返される評議会が面白く見えるなんて映画は今まで無かった。対策室に並べられるコピー機、会議に出てくる地図に書かれたライン、徹夜明けで食べるおにぎり、そんな小物が印象に残る。
早口と報連相、エヴァを連想させる明朝体のテロップとBGM。安全装置の解除処理や災害時の自衛隊の動きと作戦がリアル(庵野氏が実際に防衛省や自衛隊に協力を要請した)で防災としてのシュミレーション的要素あり・・・ともあれ新鮮で渋めの構成にワクワクしっぱなし。
「シン・ゴジラ」の特徴
初代をリスペクトしつつ現代風にしたという今回のゴジラ。庵野総監督が提示したコンセプトは「完全生物」。天敵がいないから耳がないとか、人間の目が一番怖いから人間の眼のようにしたり、白目と黒目の比率を考慮するなど、庵野総監督のコジラデザインには理由と法則があります。
シン・ゴジラの不気味な外観と、なぜ怖く感じるのかをまとめました。
不気味で無感情な目
今までのゴジラ、特に初期のゴジラは目が少女漫画のように大きく全く怖くなく現実感もありませんでした。もしくはハリウッド版のように恐竜のような瞳。
しかし、今回のゴジラの目は、人間の眼というかサメのように無感情で小さい。
アキバ ラジオ会館の海洋堂に、シンゴジラの雛形レジン彩色品が展示してました。
かなり近寄れる距離、かつ高さが低いので、今までの展示では見れなかった角度で写真が撮れました pic.twitter.com/nBVp9HYQmq
— 佐藤和由 (絶滅屋) (@kijyuu313) 2016年8月6日
またほとんど眼球が動かず、どこを見ているのか、一体何を考えているのかわからない恐怖感がありました。絶望的に話が通じる相手じゃない!という雰囲気がバンバン出てます。
ハリウッド映画のように爬虫類的な目でリアル感を出すのではなく、小さくすることで怖く見せるところが凄い。
短く小さい手
昨日までで「シン・ゴジラ」の観客動員数が100万人を突破しました!
多くのお客様から絶賛の声を頂き、大ヒットを記録中です!!
今年の夏はゴジラ!
今週末も是非ご覧ください!#ゴジラ #シンゴジラ pic.twitter.com/unDdBq7VFO— ゴジラ (@godzilla_jp) 2016年8月5日
初期の方のゴジラは手が長く、霊長類的な賢さを感じてしまうし、挙句の果てには対峙する怪獣を一本背負いしたりと、どこか人間的で全く恐怖感がありませんでした。
今回のシンゴジラは、対峙する怪獣が出てこないのが理由なのか、極端に腕が短くなっており、固まったままほとんど動きません。胸筋もなく上半身だけ途中で進化が止まってしまったよう。
ちなみに初期のデザイン設定では陸上生物への進化の過程により変異した中間型の生物だったようです。
「水棲爬虫類から陸上哺乳類に進化途中の巨大生物」と設定された。 ゴジラ (架空の怪獣) - Wikipedia
シンゴジラは顔が怖く上半身が未熟児というギャップというかその奇形的な姿がゾッとする見え方になってました。
左右非対称
歯がデコボコで舌がなく、針金が飛び出したようなオブジェクト。顔は左右非対称に作られているのでリアリティがあります。左右対称は物を美しくみせますが、左右非対称にすることで少し醜くなり可愛さが排除され、よりリアルな生物として表現されていました。
不気味なのでキャラクターグッズはあまり売れないかもしれませんが、生物としての生々しい面構えを感じることが出来ました。
刹那的な放射熱線
ゴジラ映画としては、完全にメイド・イン・ジャパンらしい誇れる作品になっていると思います。ゴジラが初めて放射熱線を吐くところでは、日本人としていろんなことを感じましたね。 パンフレット P11 竹野内豊談
放射熱線シーンは今までにないエフェクトで新鮮でした。ナパーム弾のような広範囲に渡り破壊する放射火炎と、高圧に圧縮されたレーザービームを使い周囲を切り裂いていく武器。注目して欲しいのがレーザーを吐き出すときの音。ゴーという火炎放射からキーンという高周波のような嫌な音を発しながらビームに変化するシーンは鳥肌が立ちました。
そして極めつけはこの絶望感あふれるBGM。
終末感溢れるこのBGMが流れたときに「今から起こるであろう過去最大級の天災と死を、我々日本人は無条件に受け入れなければならない」「ゴジラは生物ではなく、人智を超えた災害そのもの」と、いたたまれない気持ちになった人は多いはずです。破壊シーンで泣きそうになる映画なんて、そうそうないですよね。
世界で唯一の被爆国である日本。そして何万人もの犠牲者を出した天災や原発事故を目の当たりにした日本人だからこそ、こみ上げる感情というものがあるんだろうと染み染みと感じました。避難所のシーンとかも。そういった意味では、シンゴジラを観た日本人以外の人が同じような感情を抱くのかは疑問です。
今回のサウンドトラックは感傷的になります。
役者の演技
早口セリフが多く、役者の痛い間や顔芸・演技が消えているので自然
日本の役者さんの演技が色濃く出たり頑張った感が出るほど邦画はつまらなくなります。なぜかというと不自然だからです。現実って、言い間違えたり、どもったり、声が小さくなったりするじゃないですか。
だから役者さんが頑張るほど非現実的なドラマ映画になってしまいます。僕達が「ゴジラ」で見たいのは、役者の演技ではなくリアリティなはずです。
今回の「シンゴジラ」では、庵野秀明氏が役者さんに早口を命じたのが功を奏したのか、いい感じで役者さんの演技が封印されてそこそこ「自然」な演技になってます。宮﨑駿が声優さんを起用せず、芸能人にセリフを棒読みっぽく読ませる感じ?でしょうか。
表情を作りすぎたり役者さん特有の間が入ってたりした瞬間、テレビの世界に引き戻されたようでせっかくの映画の世界観が壊されてしまうので、役者さんの過剰な演技は勘弁ですね。
表情を作りすぎる役者さんは背後から映すとか、緩急つける役者さんはセリフ無しにすればもっと自然にドキュメンタリーちっくになったかも。
家族愛とムダな恋愛要素がないので純度が増した
音楽でも映画でも恋愛要素やハリウッド定番の家族愛は、もう飽き飽きしていて「出たー、バカのいっちょ覚え」という歪んだ感覚で見てしまうんですね。役者同士のキスシーンなんか別に見たかぁねぇ、といった印象なんですよ。恋愛要素と家族愛要素を排除するだけでも見やすくなる。
今回の「シン・ゴジラ」は、恋愛・家族愛要素が全く無く非常に観やすい。地味ながらも、絶望感と焦燥感を純粋に感じることができる構成になってます。人間ドラマが無いが故に作戦・戦略がフォーカスされ、全体の質が高く感じられ面白くなったのです。
シンゴジラのラスト
一番最後にエイリアンのような歯や人間のオブジェクトが複雑に絡みあったようなゴジラの尻尾がアップになるシーンがあるのですが、詳細は公表されてないので不明。しかし尻尾には色々諸説があるようですね。
自己分裂していく生物なので尻尾の先には形成不全と言いますか、まだできかかっている感じの歯や骨が生えている。完全生物ですから、すべての生物の要素が入っているという解釈ともとれます。(中略)庵野さんには人間の要素もほしい、とも言われたので、歯は人の歯にも見えるようにしてあります。 パンフレットP28 より抜粋
以下は考察。
- 人間を吸収してミイラ化したもの
- 次の進化形態のプロトタイプを産み出す途中である
- ゴジラの分身を絶賛増殖中である
- 第五形態への進化が停止した状態である
- 牧教授である(わたしは好きにした・・・)
- 巨神兵の誕生へ繋がる
意味ありげに終わったので続編も期待できそう。
続編の構成を予想
筆者が今最も気になっているのはシンゴジラの続編があるのかどうか。もし次回作があるのなら庵野氏が総監督をするのか、どういったストーリーか。
ラストシーンで出てきた尻尾に付着していた人間くらいの大きさのシンゴジラが、政府に気づかれずに人間を襲うストーリーだったら面白いだろうなと思いますね。大量に増殖して元締めのゴジラを倒さない限り、小ゴジラが死なないという。
人間が一番恐ろしいというセリフがあったので、次回はゴジラの細胞を持つ人間が出てくるのかも。実は教授が進化したものがゴジラだったという悲しい話とか。教授の「わたしは好きにした、君らも好きにしろ」という遺言のようなものが気になる。
尻尾から出てきた半壊した牧教授が巨大化して、巨神兵になってナウシカへと繋がるとか。
ともあれ、シンゴジラを見終わった後で様々な脳内ゴジラを作り出すのですが、どうあがいても今回のシンゴジラに勝てない。それほど神がかり的に強いゴジラでした。
といった感じで、今回のシンゴジラは、専門家の意見と視点を取り入れリアリティになり「コンテンツの質」を究極に高めた作品となってます。観てよかった。
パンフレットを読むと、シン・ゴジラをより一層楽しむことができるでしょう。くれぐれも映画を観終わってから。
記事作成日: 2016年8月9日 /
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